今回は、ワークマンについて取り上げます。
ワークマンは、作業服、特に建設技能労働者向けウェアの専門店です。
なぜワークマンを取り上げるかというと、同社が新たなブルーオーシャン市場を開拓して、業績を大きく伸ばすことに成功したからです。
ワークマンの業績は、これまで右肩上がりでしたが小幅な成長でした。
しかし、2020年3月期に一気に前年比+37.8%と高い伸びを示しています。
(バフェット・コードよりワークマンの年度業績を抜粋)
なぜこのような高い成長を遂げることができたのでしょうか。
今回はこのことについて考えていきましょう。
教えてくれるのは、株式会社ワークマン専務取締役 土屋哲雄さん著書の「ワークマン式「しない経営」」です。
この本では、ワークマンがどのように新たなブルーオーシャン市場を見つけ、その市場を切り開いたのかを説明されています。
それでは内容を見ていきましょう。
目次
これまでのワークマンの強みと成長の限界
ワークマンの強み:個人向けの作業服に特化
ワークマンは個人向けの作業服という小さな市場を深化させ、圧倒的な強者となりました。
なぜ、「個人向けの作業服」という市場を選んだのか。
作業服の市場規模は4,600億円。うち法人は6割(2,760億円)で個人は4割(1,840億円)です。
普通に考えれば市場規模の大きい法人向け市場に参入しそうなものですが、ワークマンが法人向け市場を選ばなかったのは「人手と手間がかかる」ことを嫌ったからです。
法人が相手となれば、アポどりして商談を重ねて見積もりを出し、交渉で値引きも必要。成約後も社員一人ひとりの体格に応じた作業服の調達と在庫管理が必要となりますので人手と手間がかかります。
個人市場という小さい市場で高いシェアをとり、絶対に勝てるポジション取りをすることをワークマンは選択しました。
高いシェアをとるために、「伸縮性や通気性などに優れた高機能な製品を安く提供」することを行いました。その結果、「作業服ならワークマン」という認知を広めました。
また、作業服という製品の特殊性も関係しています。
作業服は顧客がいったんある製品を選ぶとリピート率が高いため、毎年一定量の売上を見込みやすい製品です。
また、型紙も製造工程も10年は継続するため、生産面で無駄が少なく大量ロットで作れることで低価格を実現できます。
筆者は「ファイブフォース分析」でワークマンの強みを分析しています。
・新規参入の脅威:ほとんどない
・買い手の交渉力:個人なので法人ほど強くない
・代替品の脅威:ほとんどない
・供給者の交渉力:強くない
・業界内での競争:ほとんどない
このように、競争のない市場を選ぶことができた結果、ワークマンは個人向けの作業服という小さな市場を深化させ、圧倒的な強者となったのです。
ワークマンの成長の限界
一方で個人向けの作業服という市場の成長の限界も見えていました。
ワークマンは作業服というブルーオーシャン市場に過剰に適応して成功してきたことで、将来の成長を考えることができなくなっていたのです。
ワークマンが見つけた新たなブルーオーシャン市場:一般個人向けのアウトドアウェア市場
このような成長の限界が見えてきたころに、筆者である土屋哲雄さんはワークマンに入社することになります。
筆者は「第2のブルーオーシャン市場」を見つけることを考えました。
ワークマンが見つけた新たなブルーオーシャン市場とは、「一般個人向けのアウトドアウェア市場」です。
この市場に対し、「ワークマンプラス」というブランドで参入しました。
「ワークマンプラス」とは、もともとワークマンにあった派手めで一般の人もアウトドア、スポーツ、防水ウェアとして使えるものをマネキンに着せて一般客向けに販売するものです。
これが成功し、初年度の売り上げ目標を3カ月で達成しました。また、ワークマンプラスが広告塔となりワークマンの既存店売り上げも前年比154.7%と上昇し、株価も上昇する結果となりました。
ワークマンプラスの成功要因①「しない経営」
ワークマンプラスの成功が、競争戦略面から語られることは多いですが、重要なのは企業風土を変えることであると筆者は述べています。
その柱となるのは「しない経営」と「エクセル経営」です。
まず、「しない経営」とは以下のようなものです。
社員のストレスになるようなことはしない
期限・ノルマ・頑張るなど、社員のストレスになることはしないというのが1つ目です。
短期目標をいくつも掲げるほど会社はダメになってしまう。
社員に過度なプレッシャーをかけてもいいことは一つもないし、社員も伸びない。
ノルマや納期を設けないほうが、自分の頭で考え順序だてて仕事ができる。
勝てるポジションを取りをすることが重要で、次に誰がやっても売り上げが伸びていく仕組みが重要という考えによるものです。
ワークマンらしくないことはしない
これは高粗利益製品の販売、値引販売、顧客管理、毎年新製品を発表など、アパレル業の戦略のマネはしないということです。
単価を上げると、お客様が離れてしまう。
景気が悪くなり、可処分所得が低くなれば、お客様は見栄の消費はしなくなる。
また、もともとの価格が高いと早めに値引きをして売り切らなければならなくなる。
それでは、「価格への信頼感」がなくなり、お客様はバーゲンでしか買わなくなる。
製品の販売期間が短くなって、売れ残りにつながるという悪循環に陥る という考えに基づくものです。
価値を生まない無駄なことはしない
これは、社内行事・経営幹部の出社など価値を生まないことをやらないということです。
社内だけにとどまらない「しない経営」
「しない経営」は社内だけにとどまりません。
加盟店に対しても、「対面販売しない」「閉店後レジを締めない」「ノルマもない」という対応をしています。
無駄なことをしないと売上が上がるので、子どもなど2代目への加盟店の継承率は47%と長期的な関係を築いています。(加盟店契約更新率は99%)
国内ベンダー(製造元、販売供給元)にはワークマン本社から「発注書を出さない」「納品の数量を示さない」。
ベンダーがワークマンの需要予測システムに基づき、自主的に判断して納品したものを無条件で買い取ることにしています。ワークマン独特の購買行動です。
その結果、サービス率(需要に対し製品を供給できた割合)が93%から97%に上昇。
ワークマン流通センターの在庫回転日数は27日から24日に短縮されました。
「しない経営」により「社員よし」「加盟店よし」「取引先よし」「会社より」の"四方よしの経営"ができています。
「しない」とは、相手の立場で考えると、「されない」ということ。
無用な干渉をされないことで、自分の時間を有効に使えるので、ストレスフリーで売上を上げ、自分のペースで楽しく働くことができます。
ワークマンプラスの成功要因②「エクセル経営」
次の成功要因は「エクセル経営」です。
新業態を運営していく際、これまでの勘と経験は通用しないため、未知なる暗黒大陸で勝利を収めるにはデータ活用能力が不可欠でした。
ワークマンはこれまで経験と勘に頼ったデータ活用ゼロの会社でした。
店舗在庫の数量データすらなかった会社が、高度なAIソフトやデータサイエンティストを使わずに、エクセルを活用することでデータからわかるファクトから行動する会社へと劇的な変化を遂げました。
ワークマンプラスの品揃えは「エクセル経営」が根幹にあります。
全取扱製品から一般客に購入された製品を抽出し、ショッピングモール店の品揃えを決めたのです。
ワークマンの「しない経営」と「エクセル経営」から学んだこと
これまでみてきたように、ワークマンは自社の強みを生かせるブルーオーシャン市場をうまく探し出し成功を収めてきました。
その根幹にあるのは、社員・加盟店・取引先・会社の視点に立った「しない経営」と社員全員で取り組んだ「エクセル経営」でした。
「エクセル経営」については特別なスキルが必要なものではなく、現場をよく知っている社員がデータを色んな角度から分析して売上改善や在庫圧縮を図るものであり、非常に素晴らしい取り組みであると感じます。
データ分析では、複雑な予測モデルや機械学習などが取りざたされることがありますが、実際の現場では課題解決のためにそこまで難しい分析手法を使わないことは多々あります。
むしろ、ビジネスをわかっている者によってデータが分析されるほうが良い示唆を得られることが多いように感じます。
ワークマンの経営スタイルは他業種の企業にも参考になるものだと思います